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音楽とか、文学とか、そして魚釣りとか、浮き世離れした、現実逃避めいたものを浅くさらってきて、職業意識もビジネスセンスも薄い、甲斐性のない半生だったけど、ここまでエッチラオッチラと年齢を重ねてきた。
他にも最近、なんとなく色んな変化があって、密かに決心し、後輩にボソリと宣言したことがあった。
「俺、そろそろ、年寄りになるための準備を始めるわ。」
季節は11月。まだまだ暑い時もあるが、朝夕は冷え込む日が増えてきた。
いつも行く湖の道中、朝ぼらけの美しい陽射しの中、川の水が雲に変わる瞬間を見つける。写真を撮りながら、心の中で思う。
「・・・今日もどうせ、多分、釣れないだろうなあ。」
もう何年も通っているこの場所、大体のリズムは分かっている。
加えて、季節的な要因以外にも、あまり釣果が望めない原因がある。今年の状況は全く良くないと思う。
だけど、そんなことはあんまり問題じゃなくって、たとえ釣れなくても通ってしまう。
単純に魚を釣りたければ他に山ほどフィールドはあるのだけど、寒くなってくるとやっぱりここがいい。
もはや年中行事を通り越してライフワークみたいになってきたんだ。
案の定、3時間ほどキャストしても、反応は皆無。
だけど、もう僕は前の僕じゃない。ちゃんと年寄りになる準備をするのだ。
釣れないと分かったら、以前のようにだらだらと粘ることはしないのだ。
という訳で早々に釣りを切り上げ、温泉に行きました。(さすがに温泉内の写真はない。)
この温泉、天然の高濃度炭酸泉なるものが湧き出していて、初体験だったんだけど、最高でした。
22度くらいの冷泉なので、サウナで身体を温めて、冷水で汗を流して、炭酸泉につかると、あっという間に体中に泡がまとわりついてきて、何とも不思議な感覚。
あとでネットを調べると、炭酸泉って医学的にもその効能が立証されているらしく、入浴することで血流が数倍良くなるそうです。道理で気持ちよかったはずだ。
入浴料、たった550円で得られる至福。
小一時間ほど温泉でゆっくりした後は、温泉施設内で定食を頼んだ。
なるべく人に会いたくなかったから、早い時間に入ったのが功を奏して、食堂には僕一人。
しかし、この日は団体客が多いらしく、少し離れた座敷ではワイワイガヤガヤ音がしている。
「だいぶ時間がかかりますけど、いいですかぁ?」
仲居さんが申し訳なさそうに問うてくる。
いいです。いいです。むしろその方がいいんです。気兼ねなくのんびりさせてもらえるから。
陽当たりのいいロビー兼食堂といったたたずまいの部屋で一人、読みかけの太宰治に目を通す。
「晩年」と名付けられた27歳のデビュー作は本気で遺書としてしたためられたというオムニバス。
時折読むのをやめて、ロビーを見渡し、カメラで遊んでみたりもする。
人は自分が見たいものしか見えない。
お座敷はだいぶ忙しいらしい。
50歳を目の前にした僕の変化。
最近までは、心の中にいつも「甘美な死」なんていうフレーズがあって、それは文字通り僕をうっとりとさせる甘く美しい香りを放つものだった。
1時間以上待って、注文していた鯉の定食が出てきた。
宮崎の田舎で、この格好で釣りに行くのは少し勇気がいるけど、湖でならいいだろう。
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