流儀
10月になり、いつもならゆっくりと湖へのシフトチェンジを進める季節。
ターゲットは夢のビッグレインボー。
実際、2回、釣りには行った。
しかし結果はどちらもノーフィッシュ。
まぁでも、ここではよくある事。
大体、凍えるような寒さの中で、指の感覚がなくなるまでキャストし続けるマゾヒスティックさがこの釣りの醍醐味だと思ってるからまだまだこれから。
厳しく、難しいこの湖の釣り。
逆にそれでこそ釣れた時の喜びも倍加させられるのだから、簡単に釣れなくたって我慢出来る。
しかし、それとは別に、とても嫌な話しを聞いてしまった。
ネット上で人の悪口を書くことはほとんどしてこなかったとは思うが、ここに頻繁に来ているエサ釣りの話しには、流石に心底ゲンナリとなった。
悪貨は良貨を駆逐すると言うが、少しくらい上品には出来ないのか。
ここは海じゃない。獲り続ければあっと言う間にいなくなる。そんなことすらも分からないのだろうか。
現実はなかなかに厳しい。
なんとなく気分が萎えてしまって、ボンヤリとした10月が終わった。
そして月が変わり、気分を変えようと毎年11月に始まる川でのニジマス釣りに出掛けた。
解禁2日目の土曜日。この村に住む友人に聞いたところ、初日からとても多くのアングラーがこの村に来ていたらしい。
まぁいい。オールドスプーンで2〜3匹釣って、温泉にでも入りに行こう。
そんな風に考えていた。
エントリーしたポイントには既に数人のアングラーがいる。
ネイティブフィールドのほんの数百メートル区間で、トラウトアングラーが肩を寄せ合っていられるのも、この季節、この川での風物詩だろう。
ふと、上流を眺めていると、1人だけ次々と、淡々とレインボーをキャッチし続けるルアーアングラーがいる。
周りにはフライフィッシャーもいるのに、まさしく1人勝ちの様相。
「あー、もしかして。」
そう思い、話し掛けてみた。
トラウトでロッドスタンドを使う釣りは多分エリアフィッシングしかないだろう。
若いけどだいぶ経験を積んでいる彼と話し込む内に、昔の記憶が蘇ってきて、どんどん楽しくなってゆく。
湖の憂さ晴らしで来たのだが、思わぬ出会いだった。
この日は解禁2日目だったが、初日のプレッシャーが相当キツかったのだろう。
レインボーはとてもセレクティブ。だからこそ彼だけにヒットが集中する。
釣り方を分かっているのだ。
エリアの釣りをバカにしちゃいけない。
ルアーをキチンと動かしてトラウトを釣るということに関して、エリアのアングラーたちはすごい情報量を持っている。
そしてそれはネイティブフィールドでの釣りにおいても、きっと色んな応用が効く。
聞くと、山梨や長野の有名エリアに相当通い詰めたとのこと。
スティールヘッドや、イトウ、ロックトラウト、タイガートラウト等、実にたくさんの鱒族と遊んできたらしい。
宮崎に来てからはソルトばかりやっていて、トラウトは久しぶりとのこと。
「もったいない!どんどんネイティブフィールドに行けばいいのに!」
反射的にそう言える。
更に興味深いことに、ガリガリにスレたトラウトを相手にするエリア用のルアーは、ネイティブ用のルアーとは違い、実にユニークな色、形をしている。
それはまるで僕が小学生の頃見てきたたアメリカンルアーたちのようで、ルアー釣りの原点がそこに封じ込められているようだ。
魚は目の前にたくさんいる。
渓流のようなピンポイントキャストはいらない。求められるのは、ルアーを泳がせるレンジ、適正なアクション。
かすかなバイトを拾う集中力。
そして何より、刻一刻と変化する魚の活性に対応するための柔軟な発想。
こんなものを一通り持ち合わせているアングラーと一緒に過ごすのはとても久しぶりで、話していてとても楽しかった。
「さっきからフォールでしかバイトして来ないんですよ。」
「少し魚が瀬に散ったね。レンジも上ずって来てない?」
「マット系のカラーの反応が悪くなりましたね。キラキラ系で…ホラ来た!」
「写真撮るから、クランクで釣って見せてよ。」
ほんの2〜3時間だけのつもりが、結局午前中いっぱい。
考えてみれば、この国にネイティブトラウトのみを狙って釣れるフィールドなんて、どれくらいあるだろうか。
ものすごい山奥や、北海道以外、ほとんどが成魚放流や、発眼卵放流の魚を相手に休日を過ごしているのが現実だろう。
エリアとか、ネイティブとか、果たしてどれくらいの差があると言うのだろうか。
考えるほどにその境目が分からなくなる。
また、エリアのテクニックは多分に養殖場で食べてきたエサ(ペレット)を意識させるものが多いが、それだけではない、きっと鱒族の本能的な部分に迫っているものもあって、とても興味深いし、何より、アングラー自身がそれを楽しんでいる姿がとっても微笑ましい。
だからこそ彼のような若者にあの湖で釣りをさせたい。
きっと見たこともないような釣りをしてくれるに違いないから。
しかし、そのためには僕たちが解決すべき課題がまだまだ多過ぎる。
2人で昼食を食べながら、彼がスマホの写真を見せてくれた。
「見てください。北海道で遡上したサクラマスが小さい滝を越えようとジャンプしてしているんですよ。」
「へええ!すごいね!実際見てきたの?」
「はい!来年はこれを釣りに行こうと思ってます。」
いいね。うらやましい。どんどん行った方がいい。
僕は僕で、あなたたちのような若者が、伸び伸び楽しめるようなトラウトフィールドをここ宮崎にも作れるように頑張るよ。
そしていつかあなたたちの美しい流儀で、またその次の男の子たちに繋いでいってもらえるようになれれば、それはそれで本望です。
0コメント