雲海のススキ
1本目の沢は、始めこそ良かったが、すぐに大滝が現れて、その上は魚ナシ。
2本目の小沢は、500mほど釣り上がった所で、今度は水ナシ。
開始2時間もしない内に、僕のこの日の釣りは終わってしまった。元に戻り、他の2人が帰ってくる合流地点で待っていないといけない。
ま、こんな日もある。僕はあきらめて煙草を吸ったり、傘をさしながら写真を撮ったりしながら随分長い待ち時間をつぶした。
9月中旬。
台風の影響が出始めるギリギリのタイミング、やれるのはきっと午前中のみ。
3月から今まで、夜明け前のこのコンビニに何度行っただろうか。
他にも色々。
やっと2人が帰ってきた。
「どうだった?」
見るとその顔には何とも微妙な笑顔が浮かんでいる。
35歳の男が25歳の若者に、妙に芝居がかった口調で命令する。
「ほら!報告して!」
どうやら2人が入った沢は、僕のところと違って調子が良かったようで、沢山のヤマメと出会うことができたらしい。
そしてクライマックスの大場所で若者が余裕で尺を超える大物をヒットさせたけど、ラインブレイクで、、、という顛末。
へえ、すごい。
やっぱり最近、この人は持ってるなぁ。
でも今回は惜しかったね。次こそは、きっと。
それからほどなくして、とうとう雲の底は本格的に破れてしまった。大粒の雨が僕たちの撤退を余儀なくさせる。
ビショビショになったキャップを脱いで、ジムニーの中に無造作に放る。
今季はこの友人の車にも、本当に世話になった。
帰りの道中、彼らより(少しだけ)年上の僕はぼんやりと考える。
前はうっすらとしか感じられなかったけど、最近になってはっきりとわかるようになってきたこと。
それは、美しいものは魚だけに限らず、色んなところにたくさんあると言うこと。
トラウトフィッシングをするようなフィールド、つまり大自然の中では特にそうだと思う。
ただ、そのためには心を大きく開かなければならない。そうでないと見えてこない。
雨が降りそぼる中、3人で閉店した雑貨店の軒下でラーメンをすすり、若者と別れを告げた後、
本当なら眺望が素晴らしいこのスポットもこの通り。
車を降りて、何気なくまわりを見渡す。
この1枚を撮る時、頭の中に言葉はなかった。その前に吸い寄せられるように撮った。
写真家の方が、
「目に見えないものを写す。」
「写真には写らないものにレンズを向ける。」
という表現を雑誌でしていた。
一瞬だけ、そんなことに迫れたかもしれない。
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