GR3

多分、出会った瞬間にもうノックアウトされていたのだろう。


ずっとぼんやりと抱えていたイメージが急に収束し、はっきりとした像を描いてきたのを今でも覚えている。


量販店で見たそのミニマルな外観に吸い寄せられてふと手に取り、その下に無造作に積んであったパンフレットをパラパラとめくり、載せられている写真の美しさに愕然となり、しばらく時間が止まった。


もう、多分その瞬間から手にするためのアレコレを考え始めていた。



RICOH GR3。


写真のことを僕ごときが多く、深く語ることは出来ない。


ただ、直感的に心の奥底にある色・風景を写せるカメラだと思った。


それから、調べれば調べるほどますます欲しくなった。


「クセのある」カメラだという評価も読んだし、電池の消耗が激しいとか、AFが甘いとか、色々あったけど、そんなある種のバランスの悪さも僕のキャラクターに似ているような気がして、問題だとは思わなかった。


「究極のスナップシューター」なんてキャッチフレーズも僕の心を躍らせた。


確かにそうだ。


心が撮りたがってるものって、目の前に一瞬しか現れないことが多い。


だから、感じた瞬間に、とっさにシャッターを押せるってのはとても大事なこと。


また、そんな瞬間って、認識とか理解が及ぶ前に消えてしまうから記憶からもすぐ失せてしまうんだけど、確かにある。普段の日常の中にも、週末のフィールドの中にも。


加工もそんなに気合い入れてなかったけど、とうとうPCも新調して、RAW現像ソフトまでも買ってしまった。


もちろん、今までもRAW画像というものがあることは知ってた。


しかし、今まで釣りの最中撮る写真はアイフォンパシャで済ませてたり、たまにミラーレス一眼を出してもJPEGで撮るだけ。


いわゆる本気モード。それもこれも、このGR3が原因。




あ、釣りですね。はい。


なかなか気合いが入らない僕に、ここ最近、成長著しい後輩くんから無言のプレッシャーが来る。


「もうすぐ禁漁ですよ・・・。」


と。

この日、GRのフィールドデビューには不向きなあいにくの雨模様(防水機能がないのです)。


スタートフィッシング後ほどなく、彼が尺ヤマメをキャッチした。


つくづく、最近の彼は安定して結果を出すようになった。


ただ、俺も、とか、悔しい、という気持ちはあんまり起こらない。ただただ被写体を釣ってくれたことが嬉しかった。


大体、釣りなのに、カメラが濡れるのを防ぐためと、光量を調整するために折りたたみ傘を持参し、撮影のために拡げて、あっちへこっちへと傾ける。


アングラーたちは高級雨合羽で完全武装してるのに、川辺にはいつくばって傘がヒラヒラさせている様子は、傍から見るとかなり不気味だろう。


大粒の雨の中苦労して撮った1枚。だけど個人的には大いに不満。


まあ、お天道さまには逆らえないんだけど、せめてもう少し光を…。



その後は良い場所はほとんど全部譲ってもらって、


結構粘ったけど、結局僕のルアーに大物は掛からなかった。


1回だけ、軽く尺越えのヤマメが目の前で軽くルアーに触れたけど、フッキングしなかった。


原因は大体分かってる。色々あるが要するに準備不足。最近はカメラ8割、釣り2割くらいになってるからしょうがない。


でも、こうなるだろうって、なんとなく予感はあったんだよな。


このヤマメを釣った後、後輩くんには何回か、「俺の今シーズンはもうこれで終わりでいいかな。」と話してた。


大きさは尺ちょいで、それほどでもなかったけど、その顔つき、色合い、立派なヒレ。本当に最高の1匹だった。


これ以上を望む気持ちが未だになかなか起こらない。

吾 唯 足 知。



それとたまたま同時期に色んな心境の変化があって、年甲斐もなく随分長い間悩んでいた。


そんな中でのGRとの出会い。


やっぱり風が吹く時ってあるものだ。


僕は短期間で一気に行動した。そしてそれはきっと間違いではない。


釣りは今でも大好きだし、これからも週末はどこかに顔を出すだろう。


ただ、前とは違う心持ちでフィールドに臨んでいるような気がする。


この日は合計3本の川に入った。最初の2本は里川。最後の1本は比較的源流に近いところ。


正直里川ではあまり心のスイッチが入らなかった。そこに尺物が泳いでいることが予想できていても。ところが、源流域に入った途端、身体が軽くなって、ワクワクが湧き上がってくるのが、不思議なくらい感じられた。


大きさよりも美しさ、格好良さ。魚に対してはきっとそんな感じ。


他にも、見えないものを見たい。

ほのかにしか感じられないものを記録に残したい。

そんなモチベーションが特に強くなったのだろう。


僕が求めるそんなものたちは里川よりも源流の方が多い。今はそう理解している。


この日最後に写真を撮ったおチビちゃん。


いびつな形のパーマークもさることながら、やっぱり「普通の」ヤマメとは違うオーラを出しているように思えた。



それと、やっぱり前ほどガツガツしなくなったかな。


魚釣りって、詰まるところ自分の何かを自然と魚に投影する行為なんじゃないかと思ってたし、今もそうだけど、最近色々あってからは、美しいものは思っていたよりも身の回りに沢山あるって実感できるようになった。


とりあえず今のところは、釣りに行けない日でも、理想の青に近い色がわりと簡単に撮れるGRが手元にあるというだけでまあまあ幸せなのです。


Angler's lullaby

アングラーズララバイ ~ 釣り師の子守歌 〜