循環する和音

我ながらシツコイと言えばいいのか、気に入ったらトコトンと言えばいいのか、とにかく、最近とある曲をずっと聴き続けている。

Bill EvansのSolo Sessions volume2に収められている、All the things you areという曲。

聴きながら、昔、とあるミュージシャンが雑誌のインタビュー記事で書いていたことを思い出した。

「もしあなたが牢屋に入れられたとして、目の前に1日分の新聞しかなければ、きっとその隅々までを一字一句、それこそ暗記する位まで読み込むでしょう。」


確かまだ高校生の頃読んだこのインタビュー記事のことを覚えているなんて、もともと僕にこういう要素があったからに違いないのだけど、最近は前より偏屈さが増してきて、余計に自分の中にインプットする情報を選ぶようになった。


大体、現代人は食べ物もだけど、情報も詰め込みすぎだと思う。その本当の中身や良さを十分理解しきれないままに次のものをまた頭にギューギュー入れる。


まるで何かにせき立てられるように。


情報だってよく噛まずに次々飲み込んでいると脳がメタボリックシンドロームになってしまうんではないだろうか。


とにかく脳はとても騙されやすい。余計なものを詰め込めば詰め込むほど本当に自分が好きなもの、自分に必要なものが見えなくなるのではないか。



なんてね。


というわけで、僕はお気に入りのミュージシャン数人の音楽さえあれば、きっとずっと満足で、最近流行りの音楽とかには全く興味がない。


若い人たちのお遊戯みたいだったり、奇抜だったりするダンスとか不要だし、ニャーニャー甘ったるいだけの未熟な歌なんかにもほとほと飽き飽き。

まして、反骨心むき出しの、体制に反発するような歌なんてのは何より大っ嫌い。


嫌いなものはそもそも視界にいれないのが1番。今はただこの1台のピアノが紡ぎ出すアートさえあれば幸せなのだ。


ところでこの曲、転調が何回もあって楽器をやっていた頃は演奏するのに四苦八苦していたんだけど、調それぞれの和音の進行はほぼ同じパターンで、ジャズでは定番のもの。繰り返し、循環だ。

しかしここでのビルエヴァンスのプレイは、単調な循環、繰り返しではなくって、とても美しく、そして変化に富み、かつドラマチックだ。

まるで、春夏秋冬とめぐる四季が、同じように見えても毎年毎年少しずつ違うものであるかのように。 

またまるで、人の一生も四季のように穏やかだったり、激しかったり。華やいだり、寂しげだったりするように。


とても同じ循環の中で演奏しているようには思えない。何回聴いても飽きることはなく、聴くたび少しずつ違う感興が湧いてくる。文字通りの天才が紡ぐ音絵巻は本当に素晴らしい。


でも、こんなことに気が付くようになったのは、9分7秒の録音1つ1つのフレーズを大まかにおぼえて、口ずさめるくらいに聴き込んでから。

美しいものを美しいと、美味しいものを美味しいと、良いものをそうだと気付くためには、やっぱり多少の時間と経験は必要です。

そしてついでに、あくまで僕の私見だけど、ネットもチャットも大したことを教えてくれはしない。出来るだけ多くの人と会って、話しを聞いた方がためになるなんていうセオリーも、大体においてビジネス上での話しで、全く大したことじゃない。士農工商で言う1番下の下の話しに過ぎない。そんなのは仕事の時だけにしておいた方が良い。

何より大事なことは自分の感性に忠実であること。

心の琴線に鋭敏であり続けること。

そのためには、インプットするものの匂いを嗅ぐことだ。そして余計なものを入れないこと。こんなことを理解するのって、情報過多の脳内メタボさんには難しいと思う。

人が人生で頑張るのは自分自身を幸せにするため。また、そうでないと他人を幸せになんて出来ない。

答えは自分の心にしかない。僕はそう思うんです。


もうすぐ3月。渓流解禁。

今季も僕のサオはParagonたち。和訳すると「規範・模範」だそうな。いいねえ。多分僕はトラウトでは一生このシリーズしか使わない。
そして、残りの人生、トラウト以外の釣りをすることもおそらくほとんどない。

リールはまだなんだか模索中。

とりあえず今年はカーディナル52を先発させる予定。とても可愛いルックス。ラインをクリアにしたのもクラシカルで密かにお気に入り。  


ルアーたちも去年に引き続きのラインナップをメインで。ミノーはHOBOのフックを換えることでサスペンド、スローシンキング、ヘビーシンキングとして使い分ける。

あと、源流では可愛らしいラパラも投げようかな。


スプーンも前と変わらないラインアップで。全体的に去年よりも少しスプーン回帰しようと思っています。なんとなく攻略のヒントを掴んだので。


とにかく気に入ったらトコトンが信条。1つのセッティングを突き詰めないと見えない世界って、きっとありますよね。


多分きっと、こだわりってそういうことじゃないのかな。自分の中に余計なものを入れない、ということ。


一つのやり方、一個の情報を何度も何度も噛み締めることでしか見えない景色を求めて。


今年も巡る季節という和音の中で、美しさを求めて歩く日々が、もうすぐ、始まります。


去年行ったフィールドが一見同じように見えても、そこにはきっと違う何かがあることでしょう。



どうぞ皆さん、良い釣りを。

Angler's lullaby

アングラーズララバイ ~ 釣り師の子守歌 〜