夢の欠片と双子座と
幼い頃に没頭したものは、良きにつけ悪しきにつけ人生を通じて付き合えるものだと思う。
僕の場合、それは釣りと音楽と読書だった。
小学生の頃、初めて親父にヤマメのエサ釣りに連れていってもらった時に履かせてもらった地下足袋の窮屈さや、解禁日の水の冷たさ、針に刺した時に指先に付くミミズの体液の匂い。そしてアブラハヤのそれとは全く違うヤマメの強烈なアタリと手のひらに収まる美しい色彩。
中学生になると本格的にバス釣りにのめり込んだ。主な移動手段は自転車で、夜中3時くらいに起きては片道30キロくらいの道のりは平気で走った。
地元でサミットが開催された時は、自転車の後ろにくくりつけたベイトロッドのピストルグリップを本物のライフルかと怪しんだ警戒中のパトカーにまだ暗い時間、呼び止められ、尋問を受けたこともあった。
でも、そんなことも今となっては大事な思い出。
音楽も大好きだった。でもそれは流行の歌謡曲とか、洋楽とかじゃなくって、ジャズ・フュージョンといったいわゆるインストゥルメンタル、歌詞のない音楽。
当時、田舎の中学校にいた僕に、音楽については話しの合う友人なんかほとんどいなくって、1人で黙々とレコードを買ったり、ごくたまにラジオで流れるライブなんかをカセットテープに録音したりして、それこそ擦り切れるくらい聴いていた。
そして今、本気でYouTubeに感謝したくなるのは、時折そんな時代の映像をアップしてくれている人がいること。あの当時、VHSで何百回も見た映像がまた見られるなんて、こんな幸せなことはないんです。
当時人気だったTHE SQUAREを見たくって録画した別府国際ジャズフェスティバル(確か城島ジャズインって呼んでたような・・・?)で一緒に放送されたこの人、スタンレー・タレンタインというサックス奏者。
小さい頃に見てもあんまり良さが分からなかったけど、僕自身年を経るごとにどんどん彼のサウンドが好きになっていった。
べらぼうにハイテクニックな訳でもなく、おじさんがボソボソつぶやくような演奏なんだけど、「渋い」という言葉を音にするとまさしくこんな感じだろう。
もし良かったら聴いてみてください。
雲が空に重くのしかかり、今にも破れそうになる中、天気の様子を見て当初行く予定の場所から行き慣れた沢へと車を走らせる。
いつもの後輩くんのジムニーがポイントにたどり着いた時には、パラパラと小雨が降り始めていた。
この沢からは去年宿題をもらっていた。
少ない水量。フラットなチャラ瀬の連続。ただヤマメの数はべらぼうに多い。そしておそらくほとんど全てがネイティブ。
そんな場所で不用意に歩くと足下にいるチビヤマメが「サッ!!」と上流に逃げてしまい、異変を察した上流のヤマメたちも一斉に隠れてしまって、数10メートルの区間が全く釣れなくなってしまう。
極めて慎重なストーキングが求められる場所。
それともう一つ。面白いことにとある区間から上流のヤマメたちがルアーに一切振り向かなくなるのだ。
この日は雨だったが、去年来た時はすごい数の虫が流れの上を舞っていて、それらにはしきりにライズするのだけど、僕らがキャストするミノー、スプーン、スピナー、ことごとく反応しない。
ヤマメのサイズは大きくないけれど、ここをどうやって攻略するか、それが宿題であり、楽しみでもあった。
「この辺からだったよね?」
「そうですね。」
「よし、じゃあアレを試してみようか。」
上手くいくかどうか分からなかったが、作戦はあった。
果たして、宿題はあっけなく解けた。こんなに読みが的中するのも珍しい。
答えはラパラのCD1。
また、昔ながらのペイントアイに、リアル過ぎないカラー。歴史と愛嬌があるラパラでのヤマメ釣りはどこか子どもに還ったかのようにワクワクさせられた。
すごいことに、ミノーのトゥイッチやダートには反応しないヤマメたちが着水後、ワンアクションで入れ食いになった。中にはカワムツのように着水と同時に喰ってくる個体もいる始末。
ヤマメのルアー釣りなのに、リトリーブがいらないというのはとても新鮮。
ヤマメにとって虫に見えたかどうかは分かりませんが、コレ、水量の少ないポイントではオススメです。
そうこうしながら釣り進む中、後輩くんがキャッチした1匹。
サイズは8寸弱だったけど、いかつい顔つきに見事な朱色、南九州でマダラと呼ばれる所以であるお腹までビッシリと着いた黒点。
丸っこかったり、見た目にキレイではない不規則なパーマークは天然、いわゆる在来魚の可能性が高い、と知り合いの大学の先生がおっしゃっている。
その理由の1つに、キレイに並んだパーマークは養殖業の方々が掛け合わせをしながらそういう個体群を作ってきた歴史があるから、と。
なぜなら、パーマークがキレイな方が良く売れるから、だそうです。
もちろん僕らには遺伝子の知識なんかなく、見た目だけなのだけど、濃厚な野性の匂いのするヤマメにはいつ出会っても強烈に惹き付けられる。
とうとう、水の枯れ枯れになってきて、この沢から脱渓しようと斜面を昇っている時、後輩くんがふと、「あれ!?」と大声を上げた。
見ると、ウェーディングシューズの片方がフェルトの上からバックリと割れて、ウェーダーの足の部分が丸見え。
聞けば、フェルトの張り替えをしながら4年以上も使ってきたらしい。
びっこを引くように付いてくる彼に、僕はあと30分だけ本流をやらせてくれるようにお願いした。
彼は、快諾して、川沿いに伸びる林道から僕の釣りを見下ろした。僕が川を昇れば、彼も林道を歩く。何となく変な光景だった。
そして、
川がカーブするポイント、岩盤にぴったり身を寄せてストーキングし、その核心部分にHOBO50Sをキャスト。
軽くダートでラインスラックを取って誘いのトゥイッチ、そしてまた喰わせのダートを入れた瞬間。
「ゴ!!」
すぐにデカいと分かった。
思い出に残るような魚とのファイトの時間は、スローモーションになっていつまでも頭に残るものだ。
双子座の僕にとっては、なんとなく出来過ぎた話しだけど、思わぬ発見に心が和んだ。
タレンタインのように武骨で少し不器用なままでいい。
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